『スイミー』『あおくんときいろちゃん』で著名なレオ・レオニ氏。彼は1910年オラ
ンダに生まれ、アメリカとイタリアで生涯を送り、約30点の絵本作品をのこしました。
水彩絵具や切り貼り絵による、素朴でまろやかな手仕事の絵肌がたいへん心地
よく、いつみても目に飽きが来ません。パウル・クレー(1879~1940、スイスの画家.宮城
県美術館にコレクションあり)からの多大な影響を感じさせます。
私が読んだ10作を通して感じるのは「存在を問う魂の旅」と呼べる、実に真摯な
テーマです。それをお子さんたちにも通じる、簡潔な文としなやかなストーリーで
表現しています。おとなの方も、お子さんたちも、図書館等を活用して、ぜひ一度
ふれてみて下さい。
上記2点とともに、全世界的に親しまれているのが、彼の第2作『フレデリック』
(1969年初出。日本版は1983年・好学社刊、谷川俊太郎・訳)。
私にとって、アトリエを続ける上で、大切な道しるべであり、支えのひとつです。
主人公・フレデリックは「詩人」なのですが、レオ二氏は広く《真の芸術家》の
象徴として描いています。この本は、人間存在にとっての「芸術の役割、価値」
を、或る究極的な状況のもとで、さりげなく描いています。
それは、エゴを越えて、この世界のなかの輝きと美に気づかせ、生きる勇気
づけを与えてくれることです。
✤
2011年の大震災では、本アトリエ内も約ひと月休講を余儀なくされる、大きな被
災をこうむりました。ラジオでは直後から、人々を励まし、癒す音楽の価値が謳わ
れていました。
私自身もアトリエの再興に向けての日々、絵を描く欲求は失せていました。また、
震災を機に、外部での講座も2本失いました。 非常事態の下では、美術は必要
とはされないもの、贅沢品という風潮が暗に感じられていました・・・。
私は日々アトリエの片づけ、補修をおこないながら、世の中にとっての美術の意
味を考えていました。フレデリックのようにはいかない―。
・・その年、震災の日から約1週間後に予定されていた私の花と静物の個展が、
半年後の9月に延期開催されました。その半年間、私自身は生きている喜び、絵
を描く歓びを痛感しながら、新作10点を加えました。
✤
芸術の体験はふたつあります。自分が他者の作品を鑑賞する、味わうという
受容の体験。そして、自らが制作する表現の体験。おそらく後者が根本的なも
のでありましょう。
その後この数年間に、被災者はじめ現代人にとっての、芸術の「治療的な意
義」を叫ぶ声がますます高まっていると感じます。
舞踊等の身体表現、映画や芝居、美術、詩や文学・・・。自分が強く魅かれ
る芸術に、自らが参加しはじめたひとは、フレデリックから勇気づけを受け取
るでしょう。
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